猜疑を絡め取る











暗い時間帯と明るい時間帯で、
こうも景観が変わる場所もそうない。
二人で入った部屋を一人で出るわけだ。
これではまるで商売女のようで笑えた。



一度寝たのだ。
全蔵はもう顔を出さないだろう。
そういう関係を求めていたわけではない、互いに。
詰まらない真似をしたものだと、我ながら思う。
年甲斐もなく。



やけに遅いエレベーターは中々、この身体を地面に送らない。
まったく、何もかもがふざけた箱の中だ。
ようやく開いたドアをすり抜け、朝日昇る町へ逃げる。



「あっ、スイマセン」
「あ、こちらこそ」
「…」



自動ドアの横行。
ドアが開いた瞬間、すれ違った。
反射的に口をついた言葉。
遅れてのぼる視線。



「えっ??えっ?」
「銀時…」
「いや、ほら、えっ?これはちがくて、ちょっ、えっ?」



一人で宿屋に入り込むという事はそういう事だ。
だから知った男は今、酷く焦っている。
目前で、酷く滑稽に。



「いや、ってか、お前ひとりなの?」
「…」



返事を躊躇うその数秒。
又しても開く自動ドアに銀時の視線が泳ぐ。



「あれー?何、。まだいたの?」
「…!!」
「えっ?あらっ?二人?えっ?お前」



まったく、厄介事というのは一斉に襲い掛かるもので、
先程まで寝ていた男と昔なじみの男は知り合いだったらしい。
言い訳も出て来ず黙るを挟んだ二人は、
バカみたいに驚き続けていた。



だからそのまま歩き出す。
背後から名を呼ばれていたような気がするが、
歩みも止めず振り返る事もしなかった。










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「―――――で、何の用なのよ、銀時」
「そうツンケンするんじゃありませんよもう、悪い話じゃねェって」
「はぁ?」
「ほら、これ」
「!」
「上等な地酒で酒盛りと洒落込もうじゃねェの」
「…悪くねェ」



ぼんやりと覚えている会話はそんなもので、
何故そこにいたのか、それだけが辛うじて理解出来る。
無理矢理ではなかったという事だ。
少なくともスタートは同意の上だった。



銀時の持つ地酒は見慣れないもので、薄紫の珍しい酒だった。
味は甘口で、とても口当たりがよく、ついつい飲み過ぎる。
基本的に別隊で行動している為、顔を合わせる事さえそうない間柄だ。
会話も弾まないはずなのに、
アルコールに浸された脳は警戒心を容易に殺す。
気づけば三人で次々と飲み干していた。



この辺りから既に記憶は朦朧としている。
身動きが取れなくなり、腕に力も入らない。
こちらへ近づく高杉、掴まれる腕。
何事かを返す。
途切れる記憶。



次に思い出すのは絡みつく肢体、それも三人でだ。
それに強い感触。
体内に侵入する銀時の身体、髪を撫でる高杉の指。
途中途中、制止の言葉を口にしていた気がする。



何故こんな真似をしているのかまったく理解出来ず、
それなのに全身は抗えない感触に侵されている。
かわるがわる貪る男達を見つめる。
見えるが脳に直結されない。
そこにあるだけだ。
笑っていただろうか。



次に覚えているのは薄暗い室内と、汗ばみ冷えてきた身体だ。
重く痛む下腹部をよそに身を起こす。
べたつくのは複数の体液のせいだ。
裸の己を見て、やはりあれは事実だったのだと改めて思う。
床に転がり寝息を立てている銀時と、
壁にもたれ俯く高杉がそこにいるだけだ。



頭はまるで動かないが緩々と身体だけが動いた。
散らばった衣服を拾い、上物だけ羽織る。
出来る限り音をたてないようその場を離れた。
高杉が寝ていたかどうかは分からなかった。




久々に続きを書きました(キリッ)
性行為の描写を曖昧に書く事で
裏に置かない作戦決行中です


2017/04/13

NEO HIMEISM