僕はこういう形でしか愛を噛みしめられない

• 航路の合間合間に点在する買い出し用の島に降り立ち、
  とりあえず酒場へ向かった。
  
  
  買い出しはクルーに任せる。
  というかそもそも仲間でも何でもないし、
  こちらが勝手に乗り込んでいるだけなわけで
  (だったら余計に手伝えよだなんて詰まらない事は言わない約束だ)
  どこまでも厚かましいなと我ながら関心さえする。
  
  
  生活雑貨だとか食料だとか、
  そんなものの買い出しはとりあえず他に任せ、
  こちらは冷えた生で乾いた喉を癒すのだ。
  
  
  酒は好きだ。
  色んな事を忘れさせてくれる。
  それが例え一瞬の事でも一向に構わない。
  
  
  海賊共でごった返す店内は騒々しい。
  とりあえずカウンターの端に座った。
  
  
  それから大体小一時間くらいか。
  空のジョッキが５杯目を超えた辺り。
  背後がにわかに騒がしくなったなと思えば、
  どっかりと隣に人が座って来た。
  
  
  
  「ちょっ」
  「あぁ？悪ぃ―――――」
  「！」
  「！」
  
  
  
  こんな偶然はよくある事だ。
  だってここは海賊の集まる酒場だし、
  それでなくとも目的は同じ海路上なのだ。
  どこでだって顔を合わせてもおかしくない。
  
  
  キッド。
  
  
  
  「…お前、何してんの」
  「飲んでるんだけど」
  「あ―――――」
  
  
  
  この気持ちの悪い感覚を知っている。
  アルコールのせいなんかじゃない、
  この眩暈を起こしそうな呼吸の奪われ方。
  
  
  私はこの男に恋をしていた。
  
  
  
  「久々だな、」
  「キラー」
  
  
  
  キッドとの間に流れる気まずい雰囲気の理由ははっきりとしない。
  恐らくキッドにも分かっていないし、こちらだって同じだ。
  
  
  五年ほど前、確かにこの男の船にいた。
  仲間だなんて柄じゃない。
  幾つかの諍いで顔なじみになり、
  何となく馬が合うような気がしてこちらが勝手に乗り込んだだけだ。
  これまでずっとそうしてきた。
  
  
  最初は生まれた島から抜け出す時、あの時は海軍の船に乗り込んだ。
  彼らはこちらを哀れな子供だと思っていたし、実際それは事実だ。
  大人から見れば人買いに攫われた哀れな娘だったに違いない。
  
  
  この幼い身体に渦巻く悪意になど彼らは知る由もなく、庇護下に置いた。
  今思えば単純に人の良い海軍達だった。
  
  
  その船が沖に出た辺りでは皆を殺し、数日間海を漂った。
  行方知れずになった船は五日目に発見され、
  唯一の生存者として海軍本部に報告される前に姿を晦ました。
  流石に海軍本部はリスクが高い。
  
  
  予想通りすぐにには懸賞金がかけられ、
  その幼い賞金首に皆恐れをなした。
  
  
  だからこれまでそうして生きて来た。
  仲間という概念は分からない。
  そんなものがいた試しがなかったからだ。
  
  
  だからキッド達は楽だった。
  彼らはを決して仲間だとはみなさない。
  害を為さなければ構わないというスタンスだ。
  キッド達はの事を知っていた。
  
  
  お前、何した。
  賞金首のポスターを指さしそう笑ったキッドの顔を今でも覚えている。
  船に乗り込んだ後も彼らが気を遣う事はなく、
  最初はこちらの腕試しでもするかのように争いに首を突っ込んだ。
  
  
  そこで死ねばそれまで、
  まずはお前の腕前を見せてもらおうかというやつだ。
  
  
  
  「お前、今は何をしてるんだ」
  「別に」
  「まだ一人でいるのか」
  「…」
  
  
  
  キッドを挟んだ状態で話しかけて来るキラーは
  淡々とこちらの近況を伺っている。
  
  
  肝心のキッドはといえば、
  酷く所在無さげに忙しなく、すぐに席を立った。
  やれやれと溜息を吐いたキラーが席を詰める。
  
  
  これは罰なのだろう。
  己に嘘を吐き、誰かを傷つけそれでも尚、欺き逃げた己への罰。
  
  
  キッドに背を預け戦う内に、ぼんやりとした思いを抱いた。
  酷く淡く名も知らぬそれに怯えた。
  余りに無意味と思えたからだ。
  
  
  ある夜、戦い明けの帰路にキッドが開きかけた口。
  あの武骨な指先が肩に触れかけた瞬間。
  誤魔化しの仕様がない程震えた身体を覚えている。
  
  
  急に何。やめてくれる。
  顔を背けそう吐き出すのが精一杯だ。
  思わず逃げ出した翌朝の気まずさ。
  
  
  これまで単なる肉の塊と認識していた相手が
  急に名を持ったような、そんな感覚。
  
  
  
  「お前が逃げ出してもう何年だ？」
  「そういう事言うの、やめてくれる」
  「あいつ以上の男はいたのか」
  「！」
  
  
  
  星の数ほどよと呟き、一気にグラスを煽る。
  当然、嘘だとキラーには知れている。
  
  
  
  「あいつはまだ、」
  「やめて」
  「何をそんなに強情に」
  「だって」
  
  
  
  そうじゃなかったらどうするのよと、
  本音が思わず零れ落ちたところでグイと肩を引かれる。
  
  
  ローだ。
  
  
  お前、こんなトコで何してやがる。捜したぞ。
  って言うか酒飲んでんじゃねェよ。
  
  
  嘘吐きは誰だ。ああ、私だ。
  
  
  じゃあなと呟くキラーの隣、
  視線の奥にこちらを見ているキッドがいる。
  一度、視線が合った。すぐに逸らした。
  
  
  そういうのに俺を巻き込むなよと、
  呆れたように呟くローも見ていたのだろう。
  
  
  キッドの視線の先、ローと歩く私は未だに、
  彼に、恋をしているのだ。
  
  
  
  
  
  
  
  

  一月振りくらいの更新です～！

  ちょいと体調を崩しておりまして

  期間があいてしまいました

  すいません！

  私は何故か昔からキッドとキラーを

  サイトの良心的扱いにしてるんですが

  それによく絡ませられるのがローです

  今回は恋してる話です

  だけど怖くて進めない二人

  
  

  2019/09/23